2012/10/07

66


吐く息も白く
凍える足下から
声が固まる
背筋から指先が固まり
心臓から血液が固まる

お腹を出して寝たから お腹を壊し
下半身を出して寝たから 下半身を壊し
膝を壊し 足首 肩 腰を壊し
粉々にして 筋肉を揉みほぐし お湯を注ぐ

ゆっくり起き上がる身体は 水蒸気になった

2012/09/29

31


駅前の景色は変わった
昔はパチンコ屋とラーメン屋しか無かった
チェーン店はなかった
今はチェーン店のハンバーガー屋や、ドーナツ屋、
カレー屋、喫茶店がある
呑み屋がある
寿司屋がある
パチンコ屋はまだあるが、ラーメン屋はもうない

迎えの車を待っている
待たずに歩いて行ってやろうかと思う

一応、連絡する
遅れると言われる
時間を持て余す
早起きしたので眠い
あと、空きっ腹だ
チェーン店の寿司屋に入る
席を探す
皿が回転して流れている
席に座る
茶を注ぎ、皿に醤油を垂らし、箸を割る
次々と皿が流れてくる
ひかりものを探す
見渡しても、どこも光っていない
次々と皿が流れてくる
 中トロ、イクラ、鉄火巻き、エンガワ、甘エビ、イカ、サーモン、
次々と皿が流れてくる
 ビントロ、真鯛、ハマチ、カルフォルニアロール、同級生、

次々と流れてくる皿に乗って、同級生が流れてきた
 秋山、鈴木、斉藤、黒木、羽田、上野、森、原田、、、、

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「あたしは、クラスで一番足が遅いんだから、
 足なんて切ってしまえばいい。」

2012/07/26

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何年生だったかは忘れたけど、小学校の頃、
学校に劇団が来て、みんなで体育館に集まって、みんなで演劇を見た、
テレスコープ大明神、というタイトルで、
でも憶えているのはタイトルだけで、話は憶えていない、
ワクワクしたような気はするけど、面白くは無かったと思う、

子供だった頃、私には嫌いな食べ物がなくって、
というか、食べ物において、
好き嫌いがあるということを知ったときには、驚いて、
というか、薄々は感づいていて、
美味しく無い食べ物、口に合わない食べ物があって、
苦手だとは思っていたけど、それでもそれらを、
嫌いだといって残すのは、悪い気がしたので、
嫌いだから食べなくてよい、というようには考えなかった、

何年生だったかは忘れたけど、従兄弟が私の家に遊びにきて、
一緒に食卓を囲んだとき、従兄弟が謂った、
ねぇママぼくニンジンたべられたよ、
という会話を聞いて、
何を言っているのかと、驚いた、
というか、薄々は感づいていたのだが、

だから、テレビにしても、ゲームにしても、
面白く無い、退屈である、という事と、
だから見ない、だからやらない、という事は、
別の話だと考えていたから、
だから、小学校にきた劇団が面白くなくても、
自分は、じっと見ていたんだと思う、
話は憶えていないけど、舞台装置や役者の衣装は憶えていて、
私の記憶は、人の話よりも、造形物の方が、憶えやすい、

いろんな影響があって、私は絵を描くことが得意で、
賞とか貰って褒められて、
実際に描くことそのものも楽しかったのだけど、
高学年になるにつれて、飽きていって、
算数の問題集ばかり解いていた、
好きなことしかやらなくなって、絵も描かなくなった、
数式を見ているだけでワクワクして、
短い設問で、解くのに何時間もかかる問題が好きで、
算数は面白かった、

また、絵を描くようになったのは、
それから反抗期を挟んで、しばらく経った頃で、
それも、好きで描くという状況ではなくて、
無理矢理に自分に書かせていた、

絵を描くということには、
未だに、うまく、対応できない。

2012/05/07

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京王井の頭線に神泉と謂う駅があって、
私の職場はそこにあって、
今年の二月の終わりぐらいの終電のちょっと前、
仕事が終わって、外に出ると小雨が降っていて、
傘が無かったから、ダウンジャケットのフードを被って、そのまま。
駅まで歩いて、ホームに電車が来るのを待っていて、じーっと。
で、踏切の音がして、
ホームに電車が入ってきて、クラクションがファーン!って、
それがすごく大きな音で、そしたら、急ブレーキも聞こえてきて、
そん時は何が起きたのかよくわからなかったのですが、
ファーン!って、キキーッ!って、
でも、自分の前には電車は来なくって、見たら、
ホームの途中で電車が停まっていて、あれ?ってなって、
そしたら、運転手が出てきて、ホームの端までいって、戻ってきて、
無線で、話してて、人身事故って、

ええ?ってなって、まわり見たら、ホームの端に人集りができてて、
あ、何か、そこに、あるんだろうな、って思って、
そこまで行って、見たいような見たくないような、
どうしよかな、って考えて、
疲れてるんだ自分は、って思って、
疲れていたから、そう謂うのはまたの機会にすることにして、
タクシーで帰ることにして、
改札に出る階段が、人集りの方のちょっと前にあって、
そっちの方へと歩いて行ったんですけど、
気が付いたら、
階段を通り越して、人だかりの中に突っ込んで行ってて、
自分の目は何かを探してて、
見つけたのが、
ホームの先の踏切の処に、
スーツを着た人の下半身があって、上半身は無くって、
そこに丁度、ブルーシートが掛けられる瞬間で、
って謂うのが見えちゃって、ぞわぞわっとなって、
雨で、地面の血が滲んでて、ぞわぞわっとなって、
引き返して、階段上って、改札出て、路に出て、雨が降ってて、
タクシーが前から来たから、タクシー止めて、タクシーに乗って、
なんだか、無性に、誰かと、話が、したくなって、したくて、
「運転手さん、人を轢いたことってありますか?」
なんて唐突には聞けないから、
「いやぁ、電車が止まっちゃって—」とか何とか謂って、
「何かあったんですかね?」的な言葉をあちらから頂いて、それで、
「実はね」なんて風に、お話をしようかなと思ったら、運転手さんが、
「私ね、元F1レーサーなんですよ、」って謂ってきて、
「ええ?」って聞き返したら、
急にアクセルをベタ踏みして、山手通りをぶっ飛ばして、
くねくねと車と車を追い越して、街灯を擦りながら、
踏切に突っ込んでいく、突っ込んでって、
へんなところに 指を突っ込んで 指が抜けなくなる

あわてる あわてて 電車に飛び乗って うとうとして 居眠りしてたら
向かいの席に座る若者が
「俺だって、フランスに渡米したいよ、マジで!」 と謂う科白 で 
目が覚めて 電車を降りて 易者の処へと 相談に行き
性の悩み専門の易者が 路上にて 生命体と 向かい合うイメージで
先祖の供養が必要だと おっしゃって
今日が父親の命日になって キャバクラに 供養をしに やってきた

個室に案内されて 女の子が入ってきて キスしてくれて 服脱がされて
「目をつぶったら もっといいことしてあげる」って謂うから
目をつぶったら 部屋は静かになって 目を開けると 空虚になって
個室を出て 受付を抜けて 店を出て 路に出て 神田川の処で
どぶに 金を 捨てた
それから 一人になって
へんなところに 指を突っ込んで 指が抜けなくなって
消防車のサイレンが聞こえてきて どきどきして 見に行ったら
パン屋さんが火事になっていて こんがりと
甘い匂いが して来たんだ イースト菌の